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生前贈与の失敗例

  • 文責:所長 税理士 武田彰弘
  • 最終更新日:2024年10月3日

1 生前贈与の落とし穴

相続税の節税のために生前贈与を活用される方は、多くいらっしゃいます。

確かに、年間110万円までの贈与であれば、贈与税はかかりません。

そのため、生前贈与は、有効かつ強力な相続税対策になります。

しかし、生前贈与は、間違った方法で行ってしまうと、生前贈与であることを否認される場合や高額な贈与税を課せられる場合もあり、注意が必要です

現在では、相続にあまり詳しくない士業の専門家や、金融機関の担当者、不動産会社の営業マンなどが、生前贈与について誤った知識を広めていることもあります。

相続税対策で失敗しないためにも、正確な情報をもとに生前贈与を行うことをおすすめします。

以下では、よく見られる生前贈与の失敗例について紹介します。

2 生前贈与として認められないケース

単に相続人名義の口座にお金を入れただけでは、生前贈与として認められず、相続税対策にならない場合があります。

例えば、父が長男名義の預金口座に、年間110万円ずつ、10年間贈与を行ったとします。

その口座は、父が管理しており、通帳や銀行印も父が保管しています。

このケースでは、長男名義の口座は、いわゆる名義預金と呼ばれる状態にあります。

こういった場合、形式的には、長男名義の口座にお金が振り込まれており、生前贈与の体を成しているようにみえますが、実質的には、父から長男への生前贈与はなかったものとして扱われてしまう可能性が高いです。

そうなると、相続が発生した際、長男の口座へ移されたお金は父の遺産という扱いとなってしまい、お金を移した意味が無くなってしまいます。

相続税の申告が必要となった場合には、長男名義の口座にある預貯金も遺産に含めて、申告をする必要があります。

万が一、長男名義の口座の預貯金を除いて相続税の申告をすると、後日、遺産を少なく見積もって申告したとして税務署から過少申告加算税といった追徴課税をされる場合や、税務調査に入られる可能性があります。

3 高額な贈与税が課せられるケース

また、相続に詳しくない専門家の中には、「贈与契約書を作成すれば、名義預金にはあたらないから安心です。」とアドバイスをされる方がいます。

しかし、贈与契約書を作成したとしても、名義預金にあたるケースもあります。

また、贈与契約書を作成してしまったがために、高額な贈与税を支払わなければならない場合もあります。

例えば、契約書の文言が「父は、長男に対し、10年間、毎年110万円を贈与する」というものだった場合、長男は契約時に、「毎年110万円を10年間受け取る権利」を贈与されたと解釈される可能性があります。

そうなった場合、110万円を10年間なので、1100万円を契約書作成時点で贈与されたことと同様になるため、贈与税として200万円以上を支払う必要が生じます。

このように、専門家の中には、誤ったアドバイスをされる方もいるため、生前贈与を行う場合は、相続税に詳しい税理士に相談されることをおすすめします。

4 相続時精算課税制度を使って失敗したケース

⑴ 相続時精算課税制度とは

そもそも相続時精算課税制度とは、簡単にいうと、生前贈与については2500万円までを非課税とする一方で、その人が亡くなった際には、相続時の相続財産に、過去に生前贈与した分も合わせて相続税を課税するという制度のことをいいます。

詳細については、以下の国税庁のホームページもご参照ください。

※参考リンク:国税庁/相続時精算課税の選択

また、当サイトの記事でも相続時精算課税制度について解説していますので、こちらもご覧ください。

例えば、父が長男に2500万円の自宅を贈与する場合、相続時精算課税制度を使えば、贈与税がかからずに、生前贈与をすることができます。

その後、父が亡くなった際に、贈与された自宅も合わせて相続税を計算することになります。

⑵ 使い方によってはかえって相続税が高額になることも

専門家の中には、相続時精算課税制度について誤った使い方を教えてしまう方がいます。

例えば、相続時精算課税制度を利用すれば、贈与時点では贈与税が課されないことから、生前対策と称して、親から子に自宅を生前贈与することを提案される方がいます。

しかし、先ほど説明したとおり、相続時精算課税制度を利用したとしても、制度を利用して行われた生前贈与は、ゆくゆくは相続税の課税対象となります。

また、生前贈与をした場合、たしかに贈与税はかかりませんが、不動産取得税や登録免許税といった税金のほか、所有権移転登記にかかる費用などが必要になります。

対して、相続で取得する場合、生前贈与の場合とは異なり、不動産取得税はかからず、また、登録免許税も5分の1の金額で済むため、相続時精算課税を使った生前贈与の方が、税金が割高になってしまうおそれがあります。

⑶ 相続税の特例も使用できなくなる

また、生前贈与してしまうと、小規模宅地等の特例という相続税を抑える特例が使えなくなる可能性もあります。

小規模宅地等の特例の詳細については、国税庁のホームページをご参照ください。

※参考リンク: 国税庁・相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)

そのため、間違った方法で相続時精算課税制度を利用すると、相続で取得するよりも、高い税金や費用がかかる場合があります。

相続時精算課税については、令和6年1月1日に改正があり、従来よりも利用しやすくなりました。

しかし、先ほど挙げた注意点については改正後も変わっていませんので、注意が必要です。

なお、改正点については、以下の国税庁のホームページもご参照ください。

※参考リンク:国税庁/令和5年度 相続税および贈与税の税制改正のあらまし

このように、相続時精算課税制度を利用する場合は、本当に相続税対策になるのか、慎重に検討した上で行う必要があります。

5 生前贈与については税理士へご相談を

この記事では、生前贈与の失敗事例を紹介しました。

相続税対策として生前贈与を行う際には、様々なことに注意する必要があります。

判断を誤ると相続税が高額となってしまい、逆効果になってしまうおそれもあります。

どのような点に注意すべきかは、個々の状況によって異なります。

生前贈与は性質上、年数をかけて計画的に行う必要があるものですので、前もって税理士に相談されることをおすすめします。

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